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無題

静かな朝です。

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私は姉からいろんな事を教えてもらいました。
映画の事もその一つ。
まだ高校生だった頃。姉は神戸の「湊川」(「新開地」と言った方がいいかな?)の「パルしん」(正確には『パルシネマしんこうえん』)という映画館に通っていました。今思うと、自分が親だったら絶対に一人では行かせたくないような雰囲気の映画館。風俗店やパチンコ屋が軒を連ねる商店街の端っこのガード下にその映画館はありました。
 姉は「パルしん」で観た映画の事を時々私に話してくれました。
 そのころ私はまだ中学生で毎日部活で走ること以外、なんにも考えていないような脳みそだったのでその映画の話はよく理解できませんでした。でも姉は楽しそうに、それは楽しそうに話してくれていました。
 ある日姉は「パルしん」に私を連れて行ってくれます。小さなカウンターでチケットを買ってパンフレットや同人誌のような手書きの週報のようなものをもらって、そわそわしながら緩やかなカーブをえがく赤い階段を降りて行きました。重たい木の持ち手の大きなドアを「ぎっ・・・」と引いて開けると真っ暗な館内に、上映前独特の空気が漂っていました。そしてそこにチラホラと異彩を放つ人影が。。。半日はここで寝ているのであろうホームレスの人、ビールの缶を持ち込んでピーナッツを食べるお酒臭い人、化粧直しに余念のない水商売風の女性。一瞬ひるむ私をヨソに姉は妙に落ち着いて自分達が座る席を探していました。
そんな慣れた雰囲気の姉を「オトナ・・・」と思って一瞬うっとり見つめていました。残念なことにその日観たのは何の映画だったかは忘れてしまったのですが。

 そんなこんなで私の「ぱるしん」初体験は終わり、それから私も何かとそこへ通うようになっていました。何せ安いのです。新旧問わずいろんな映画が楽しめます。月によって特集が組まれたりして「フランス映画傑作集」とか「ウェスタン物特集」とか・・・。2本立てであの当時確か1000円するかしないかだったと思います。

 中でも姉はフランス映画に夢中でした。パトリス・ルコント監督の映画は全作そこで観ていたような・・・。私もそんな姉に影響されてフランス映画は大好きでした。でも好きな女優の好みは別でした。姉は「ベティーズ・ブルー」のベアトリス・ダルや「髪結いの亭主」のアンナ・ガリエナを。私はジュリエット・ビノシュが好きでした。中でも当時私がまったく理解できなかった、姉が「美しい!」と言った女優。それは「二キータ」のアンヌ・パリロー。

 そして「二キータ」の映画の良さも最初全く分かりませんでした。

 姉は時々「やっこちゃんには わかんないよ。」と言いながら好きな映画を教えてくれました。
私は少し無理をしてその映画を観る。でもやっぱり分からない・・・という事がよくありました。この「二キータ」もそうでした。薬物中毒の少女が警官殺しで終身刑になり、秘かに暗殺者に訓練されて国の秘密工作員になる。でも恋をして普通の生活を送りたい、と願うのだけれど容赦なく組織から暗殺指令がくる。二キータは泣きながら職務(?)をこなし・・・。暴力シーンや銃撃戦のシーンが多く、そっちばかりに気がとられていた当時の私。それに姉が「きれいきれい!」と絶賛するこの女優はなんだか男みたいだし、とこの映画には全く最初は共感できなかったのです。

 そうこうしているうちに姉はフランスへ。私もいつの間にか走ることしか脳のない部活少女から、殻をやぶって少し大人に近づいていました。出会いがあって別れがあって。恋をして。。。家から出て外でいろんな人に会う機会が多くなると世間の懐の浅さ、それに相反するかのような人間の心の深さ、自分のちっぽけさ。。。そういう事を短い間にたくさん経験した時期が、ちょうど姉がフランスで生活を送っているころでした。いつもついて回っていた姉から綱をほどかれ、独りになって色々な事を見ていました。それ以上に姉は同じころ、異国の都会で計り知れない孤独と闘っていたのでしょうけれど。。。

 そしてそんなある日、また、「二キータ」を観る。
 ショックでした。
 前観た映画とそれは同じ映画だとは思えないほど。。。前に私には全く見えてなかった「シーン」がこの映画にはたくさんありました。二キータ役のアンヌ・パリローの大きな瞳には、孤独に打ち勝とうとするけどどうしてもうまくいかない女性の強さと弱さとが先天的に与えられてるのでしょうか?
「私も最初からコレを分かりたかった。…」そう思いながら。
時々映画のバックで流れるピアノの寂しげな旋律にドキドキしながら。
アンヌ・パリローの泣き顔が少し姉に似ている・・・そんな事を考えながら。
静かにこの映画を観ていました。

「二キータ」。
リュック・ベッソン監督の'90発表の映画です。

ハリウッドが「アサシン」と題してリメイクを発表した時の腹立たしさは今でも忘れられませんが(笑
本当に本当に素敵な映画です。

中でも一番好きなこのシーンをどうぞ→ ※リンク先の動画は削除されました。
※出来れば最後まで少しボリュームを上げてじっくり見て下さい。6'50~ PIANO AWESOME!

やっぱりどことなく二キータのアンヌ・パリローに姉は似ている。
今朝も彼女はフランスの田舎道をマラソンしていることでしょう。
salut !
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by iroirostyle | 2009-04-23 10:45 | 暮らし